2014年11月19日

「大義なき解散」がもたらす勝利が安倍政権を揺るがす可能性

安倍首相が衆議院解散を表明した。政治が好きな人ほど「わけ、わかんねー」と思うだろう。デフレ脱却に失敗するリスクを回避するため消費税増税を延期するという点まではわかるとしても、なぜ、延期だと解散しないとならないのか、意味不明だ。

安倍首相は「国民の信を問う」としているが、国会で議論も尽くさず、「信を問う」はないだろう。
「増税は2012年8月、当時の首相、野田佳彦氏と自民党総裁だった谷垣禎一氏と公明党代表の山口那津男氏の三者で結ばれた民自公の3党合意にもとづいており、それを見送るのだから国民に信を問うべき」という理屈は立つが、3党がともに消費税引き上げ延期に賛成するなら、解散する必要はない。

それに、前回の衆議院選挙は2012年11月16日解散の12月16日投開票。まだ、2年しか経っていない。支持率は低くないし、解散が必要とは思えない。総選挙をやれば自民党の圧勝と思われるが、現在よりも議席が増えるとは限らない。減る可能性だって十分にあるし、「わけ、わかんねー解散」によって、今まで安倍首相に好意的だった有権者の心が離反してしまう怖れもある。

来年9月の自民党総裁選で無投票再選を果たして長期政権を築くためという考え方もあるが、それなら来年の春から夏にかけて解散総選挙を行う方がはるかによい。

必要がなく、リスクがある解散をなぜ行うのか?

さまざまな憶測が乱れ飛んでいて、「自爆解散」「追い込まれ解散」「政権失速の兆し」「成果が出ないアベノミクスのカモフラージュ」「成果が出ない北朝鮮外交のカモフラージュ」「閣僚スキャンダルのリセット」「自民党内の引き締め」などともいわれる。
なかには「初めはブラフだったが、次第に本気になってきた」というような「殿、ご乱心」めいた推測もある。
実は私も最初はポーズだろうと思っていたが、どうもそうではなさそうだ。

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これまでの日程を追ってみよう。

10月29日、自民党幹事長の谷垣禎一氏は報道陣に早期解散の可能性を聞かれ、「いろんな議論が出てくる」「総理は熟慮されて判断されると思う」とコメントしている。これはお祭り前の「花火」だろう。ポンポンと打ち上げて、「そろそろ来るぞ」と知らせたのである。

11月9日、安倍首相は「解散については全く考えていない」と語った。真っ赤なウソである。

11月10日〜11日の2日間、北京でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が開催され、安倍首相は北京へ向かい、そのままアジア外遊となった。その留守の間に「時限爆弾」が炸裂した。

11月11日の自民党役員会で、自民党総務会長の二階俊博氏が谷垣禎一氏に「マスコミ報道で衆院解散が取り沙汰されているが現状を説明してもらいたい」と質問を発した。もちろん出来レースである。二階氏×谷垣氏の掛け合いで話が進み、解散は「現実」となり、政局は選挙に向けて急速に動き始めた。

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タイミングとしては悪くない。さまざまな理由が考えられる。思いつくままに挙げてみよう。

◎デフレは脱しつつあるが、アベノミクスには停滞感も漂う。それをカモフラージュしたい。
◎2015年には集団的自衛権や原発再稼働など国論を二分しかねない問題について話し合うので、その前に総選挙で大勝して足場を固めたい。
◎北朝鮮外交では隠されている部分が大きすぎてよくわからないが、成果を上げていないように見えるのでゴマ化したい。
◎野党の選挙準備ができていない。とくに民主党は海江田万里代表が求心力を欠き、海江田氏と海江田代表に距離を置く枝野幸男幹事長、福山哲郎政調会長ら執行部ではまともな選挙態勢は組めない。
◎選挙となると野党も選挙準備や候補者調整に追われ、スキャンダル閣僚への追及が甘くなる。
◎増税だと選挙に不利だが、増税先送りだと大勝できる。

ここでいったん「もし解散しなかったら」を考えてみよう。
まず、上記のことができなくなるか、守勢にまわることになる。それから非常に重要なことがひとつある。次の選挙のことだ。

前回の衆議院選挙は2012年12月で、衆議院議員の任期は4年だから、最長でも2016年12月には総選挙を行わなくてならない。

一方、参議院議員の任期は6年で解散はないが、定数242名のうち半数ずつ、3年ごとに改選する。次の参議院選挙の予定は2016年7月25日前後となる。

この場合、有権者の手間を考えて、参議院選挙に日程を合わせた衆参同日選挙(ダブル選挙)となる可能性が高い。
ダブル選挙そのものは強い与党にとって、必ずしも悪い選択肢ではない。衆参でねじれが生じる怖れが少ないからだ。しかし、投開票業務にあたる自治体の職員の作業はたいへんになるし、何よりも与党として連立する公明党の負担が大きい。

衆参同日選挙の場合、衆院選では小選挙区と衆院比例選、参院選では参院選挙区と参院比例選と投票が4件ある。しかし、公明党の支持母体である創価学会の会員にとって、友人知人に投票を頼むのに2〜4人もの名を挙げて「よろしく」とは言いにくい。
また、公明党の小選挙区候補はそう多くはなく、せいぜい10〜20名くらいであり、残りの選挙区では1選挙区平均2万数千票と言われる創価学会の票が自民党候補にまわる。しかし、同日選挙では、自民党候補まで票が回らなくなる怖れがある。

今回の早期解散・総選挙については、安倍首相が長期政権体制を築くために行うものの一環であることは間違いない。とくに公明党に配慮することで、2016年の衆議院選挙と参議院選挙が同日となるのを回避したというのが核心にあり、かなり早い時期から公明党の山口代表との間で密約があったと考えられる。

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最後に今後のことを考えてみよう。
「みんなの党」は壊滅(解党)して散り散りになり、自分が助かるのが精一杯。民主党は具体的な政策を示せず、自民党の批判をするだけで何もなし。維新の党は、以前、太陽の党(元「たち日」)と組むためにTPP賛成と反対、原発賛成と反対を擦り合せたときから、「政党」ではなくなった。弁護士をやっている共同代表が国民との契約(主張は契約だという意識はないのかな?)を破っているようでは、どうしようもない。さらに、その共同代表が野犬のような喧嘩を繰り返し、大事は任せられないイメージがついてしまった。言っていること自体はその場その場に限ればそうおかしくないのだが、政治家としての資質に欠陥があるのだろう。そういうわけで、反自民の受け皿となる野党がない。準備期間もない。
この状態では、今度の選挙では批判票がある程度民主党に流れるとしても、自民党の圧勝に終わる可能性が高いだろう。ただし、この勝利が「明日につながる勝利」かどうかは、非常に疑問だ。

祖父の岸信介がタイミングを逃した過去の轍を踏むまいという気持ちはわかるし、現在、大勝する条件がそろっているのかもしれないが、憲法改正という大問題に挑むには、来年あたりに衆議院の解散総選挙を行い、再来年に参議院選挙を経るという大きな門から入ってほしかった。

今回の件には、あだ花に終わった「憲法96条の先行改正」を思い出させるあざとさがつきまとう。どう説明しても「大義なき解散」であることは明白だ。自民党の支持者や安倍首相の支持者は、それなりに道理がわかる人が多いだけに、民心が離反し、憲法改正論議に影を落とすことが懸念される。

<補記>
小4がつくった『どうして解散するの?サイトつくったからおしえて』というサイトを、民主党が『天才少年現る!』と絶賛! しかし、どー見ても自作自演で炎上。民主党というのは、どうしてここまでバカ揃いなのだろうか?
http://togetter.com/li/748266
問題のサイト↓
http://why-kaisan.com/

<補記の補記>
『どうして解散するの?サイトつくったからおしえて』については、私はてっきり民主党の自作自演だと思って上のように記したが、「僕らの一歩が日本を変える」というNPO法人の代表理事である青木大和という個人が行ったものであると公表があった。
しかし、洗練された文字コードやデザインを見る限り、少なくともウェブサイト制作のプロが関わっていることは明白であり、個人でできることではない。
また、アップして「発見」して呼応して…という筋書きには、役割を受け持つ者が何名かは必要になる。
ちょっと検索すれば、「僕らの一歩が日本を変える」と民主党の有名議員が和気あいあいの画像も出てくる。

実際、何があったのか、この先のことはそれぞれで想像すればよいだろう。


posted by たぬたぬ at 10:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする