2015年10月28日

コカ・コーラ社は、なぜ製造法の特許権を取得しないのか?


先日、ビジネス誌の取材で、ある企業の社長にインタビューをしているとき、特許の話になった。その企業はきちんと必要な申請をしているようなので大丈夫だと思われるが、実は特許について勘違いをしている人や企業は少なくないので、自分の知識の範囲で書いておこうと思う。

特許についての勘違いの最たるものは「発明や技術開発をしたときに申請すれば、権利を守ってもらえる」というものだ。これは誤りである。たしかに特許権は非常に強い権利であり、特許権者の権利は厳しく守られる。しかし、それは特許の限られた一面に過ぎない。
特許制度の最大の目的とは、発明や新規技術の開発がなされたら、それを広めて産業振興をはかることなのである。
従って、出願して審査申請を出し、審査に通ったものはすべて公開される。それも現代では特許庁に関連する独立行政法人「工業所有権情報・研修館」のホームページから検索可能となっており、海外からも気軽にアクセスできる。特許を取るというのは、とてもリスキーなことなのだ。

特許権を取得すれば、一定期間(20年間)、国から独占権を付与される。もし他社がその権利を使いたい場合は、特許使用料を得ることもできる。しかし、20年経過後はだれでもその技術を使うことができるようになってしまう。
「20年も権利を守れれば十分だ」などと考えてはいけない。
あなたの会社が申請した特許を参考にして、特許を取得した範囲を少しズラして模倣品の開発を行う会社など、いくらでも出てくる可能性があるのだ。

だから、コカ・コーラ社はコカ・コーラの製法の特許権を取得していない。もちろん解析は行われているが、本当のレシピは謎に包まれている。
本当のレシピが究明されない限り、コカ・コーラ社の地位は揺るがない。

※公開された特許を調べる方法は、簡単なものから詳細なものまでありますが、簡単なものを紹介します。企業名などを入れて検索すると、実際に情報を見られることがわかるでしょう。
特許・実用新案、意匠、商標の簡易検索

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特許を取るかどうかというのは、結局は「戦略」の問題なのだ。そして、その方向性は、大きく3つに分けられる。

1.特許を取得して、自社だけで使う。あるいは他社に使用を許可してライセンス料を取る。
2.特許は取らず、企業秘密とする。
3.あえて特許を無償公開する。

1番目の「特許を取得して、自社だけで使う。あるいは他社に使用を許可してライセンス料を取る。」というのは、最も一般的な特許取得のイメージに合致するものだろう。

2番目の「特許は取らず、企業秘密とする。」というのは、上記のコカ・コーラ社のようなパターンだ。最近は知的財産権に関する意識が低い国の企業から真似されてしまう恐れもあるため、企業秘密戦略を採るケースも増えているようだ。
ただし、特許を取得せずにいて、他社あるいは他者に先に特許権を取得されたら、自分がその特許を使えなくなってしまう。法廷で争っても勝てるとは限らない。
特許権を取得するべきか否かの判断の一つの境目は、リバースエンジニアリングが可能かどうかだろう。平たく言えば、分解して調べることができるどうかだ。機械製品ならサンプルをひとつ社費で購入して分解すれば、わかる可能性が高い。一方、コカ・コーラのように簡単には製法がわからないものに関しては、企業秘密にするという選択肢もある。

3番目の「あえて特許を無償公開する。」については、次のようなものがある。

2015年1月5日、トヨタ自動車は燃料電池車に関する特許のすべて、約5680件を無償で公開すると発表した。その前月に量産型燃料電池車としては世界初となる「MIRAI」の発売を開始した直後のことだ。
ここでねらっているのは、市場の拡大だ。他社を大きく引き離す技術を持っているのは結構だが、ここまで画期的な技術となると、1社では広まらない。そこで、他社の参入を促して、燃料電池車の普及をめざしているのである。
ただし、正確に言えば、「2020年末までを期限として特許実施権を無償にする」という発表なので、その後はライセンス収入獲得路線に転換するかもしれないし、中国のメーカーが水準に達しない車を出してきたようなときは、特許の使用を拒否することもあり得る。
他社に追随させることで自社の技術を業界の「スタンダード」としていくとともに、市場をコントロールしていこうという戦略だろう。

2015年3月24日、パナソニックは、機械製品に通信機能を搭載して、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うことによって利便性を高めるIoT(Internet of Things)分野の特許約50件を無償提供することを発表した。IoTを使った技術では、たとえばキッチンの冷蔵庫とインターネットを結びつけて、中に入っている食材でできるレシピをモニターに表示するといったことが考えられる。
このねらいは、トヨタ自動車と基本的に同じだ。IoT市場を大きくすることで、自社製品の売り上げを伸ばすことだろう。

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特許を取る場合、もうひとつ注意しなければならないのは、国内特許にするか、国際特許にするかである。
国内特許のみの場合、他国の企業に真似され、日本以外の海外市場で製品を販売されても、解決をはかるのは難しい。そもそもの法的根拠がないからだ。
それゆえ世界的に見て価値ある発明や新技術の場合、国際特許を取る必要がある。これは特許協力条約(PCT/Patent Cooperation Treaty)に基づくもので、自国の特許庁に出願願書を提出することによって、PCT加盟国すべてに同時に出願するのと同じ効果を持つ。ただし、特許権を認めるかどうかの判断は、それぞれの国による。

国際特許の費用は大きなものになる。それゆえ、真に重要な特許は国際特許で徹底して取り、それほどでもないものや簡単には真似されないものは企業秘密で行くといった考えもあり得るだろう。
いずれにせよ、重要な発明や新技術を国内特許にして、インターネット上に情報を露出させ、海外企業を無料で利するような愚を犯してはならない。
posted by たぬたぬ at 13:32| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス・産業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする