2016年10月03日

「北朝鮮亡きあとの世界」〜覇権闘争となる東アジアに備える


先月9月23日、安倍首相は「北朝鮮は新たな脅威の段階に入った」と語った。これは北朝鮮が9月9日に5回目の核実験を行ったことを受けたものである。
今回のミサイルは「新浦級」と呼ばれる潜水艦から発射されており、その性能はまだ高い水圧には耐えられないため、日本海や太平洋へ出ることはできないが、ミサイルの性能は格段に向上し、グアムにある米軍基地に届く可能性は出てきた。いずれはアメリカ本土へも届くようになるだろう。
この場合、日本として気になるのは、「アメリカはたとえ自国が原爆の危険にさらされても、本当に日本を守ってくれるか?」ということである。

普通に考えれば、国の信用を守るためには日米安保条約は遵守することになるであろうし、もし北朝鮮がアメリカに向けて核ミサイルを発射したら、サダム・フセインを追い詰めたときと同様、バンカーバスター(地下貫通爆弾)を使うか、秘密のベールに包まれているプラズマ兵器を使って、即座に金正恩を葬り去るだろう。
それでも、複数のミサイルを発射されれば迎撃し損なうものも出て、アメリカ国民の間で日米安保見直しの世論が高まることは考えられる。

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さて、私はかねがね与党と野党の違いは、「何が何でも、たとえ国民を騙してでも、国民を守る」という覚悟があるかどうかではないかと思っている。本物の政治家と、そうでない政治家の違いと言ってもよい。

たしか司馬遼太郎の『坂の上の雲」で西郷従道にまつわるエピソードとして、そのようなシーンがあったなと思って探してみた。次のような話だ。

日本海軍の創設者である山本権兵衛が戦艦三笠をイギリスの会社に注文したものの、予算が尽きて前渡金を捻出できず、西郷従道に相談した。すると、西郷はこう答えた。
「それは山本サン、買わなけれないけません。だから、予算を流用するのです。むろん違憲です。しかしもし議会に追求されて許してくれなんだら、ああたと私とふたり二重橋の前まで出かけて行って腹を切りましょう。二人が死んで主力艦ができればそれはそれで結構です」(『坂の上の雲』第3巻 文春文庫 p.62〜)。

三笠とはのちに日露戦争の旗艦となり、東郷平八郎や参謀の秋山真之らが乗り込んでロシアのバルチック艦隊を破った、あの三笠である。

似たような話は、伊藤博文と小村寿太郎の間にもあった。

日清戦争の初め頃、日本は朝鮮に鉄道を敷く権利を得たが、国力がなくて実現できないため権利を外国に売ってしまった。小村寿太郎はこれを買い戻そうとしたが、金がない。議会にかければ、党利党略の材料にされて、暗礁に乗り上げることはわかっている。
そこで、伊藤博文のもとを訪れた。伊藤は答えた。
「それほど大きな国庫負担になる案件を議会にはからずに政府の手でやるというのは憲法違反だ。憲法の起草者たるわが輩が違憲をやるわけにはいかん」
小村は言った。
「そもそも立憲政治とは責任政治のことでありましょう。国利民福になることなら国務大臣が責任を負って断行すればいいので、いちいち議会にはかることだけが立憲政治じゃありませんよ」
結局、伊藤は小村の意見を取り入れた(『坂の上の雲』第2巻 文春文庫 p.278〜/要約)。

政治家が憲法違反をするという話は、もしこれが安倍政権であれば生々しいが、歴史の上で距離を置いてみれば、「賢い」「覚悟がある」という評価にもなるだろう。

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このような意味で、戦後日本最大の「責任政治」は、自衛隊だろう。
「軍隊をなくせば戦争はなくなる」というのは「警察をなくせば犯罪はなくなる」というのと同じで、世界の現状を見れば軍事力は必須である。
そのため日本は解釈改憲によって、自衛隊を維持してきた。自民党以外の政党が、一時のあだ花を除いて与党として支持を受けたことがないのは、この辺の現実認識が欠けているからだろう。憲法を守って、国が滅びては意味がない。

さて、このような現実主義に立って維持してきた隠れた施策に核準備がある。原発の使用済み核燃料として出るプルトニウムのことだ。
日本にはいまだに使用済み核燃料を廃棄する場所がない。廃棄物を捨てる場所がないのに原発を続けてきたのには、裏の理由がある。万一の事態になったとき、原爆を製造できる「核準備国(ニュークリアレディ国)」であろうとしたためである。
広島と長崎で原爆を体験した日本では核へのアレルギーが強いため、隠密施策を取ってきたわけだ。

原爆をつくらなければならなくなる事態とは、核を抑止力として行使せざるを得ないとき、もしくは戦争になったときである。そういう事態は起きないに越したことはないが、北朝鮮の動きを見ていると、あり得ないとは言い切れない。

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北朝鮮も脅威だが、一歩進んで備えなければならないのは「北朝鮮亡きあとの世界」である。

今のところ、中国は北朝鮮を「緩衝地帯」として維持していこうとしているように見えるし、韓国も北朝鮮が崩壊してその人民を引き受けることになったら、経済的な負担が重くなる。アメリカも、たいした資源のない北朝鮮をめぐって中国と対峙することについては及び腰だ。

しかし、金正恩がもし一発のミサイルをグアムに向けて発射したら、アメリカは報復に出て、北朝鮮を併合しようとする韓国と、北朝鮮を奪おうとする中国の間で、大きな紛争が起きるだろう。
あるいは、中国はすでに金正恩を暗殺して北朝鮮を奪うことも視野に入れていると思われる。中国にとって北朝鮮を味方にしているのは、狂犬を飼っているようなものだ。北朝鮮のミサイルは「アメリカを敵」とする表の理由の裏側で、中国への反抗をも企図しているからである。

現在、アジアでは、中国が膨張主義を取って緊張を高めているが、韓国が北朝鮮を併合してその核兵器を受け継ぎ、核保有国となって、さらに緊張が高まる事態も考えておかねばならない。

韓国と中国の線引きはどうなるかはわからないが、そのときの韓国が親日のはずがない。
現に今も、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を2015年12月28日に確認した日韓合意に従い、日本政府は10億円を拠出したが、韓国はソウルの日本大使館前の慰安婦像を撤去していない。
そもそも1965年に日韓基本条約を結んだときに十分議論して手打ちにしたものを蒸し返してきたので、国民感情を考えて百歩譲ってやったにもかかわらず、国と国の約束すら守らないのである。

中国と韓国は法も決まりも守らない国で、とくに韓国は子どもレベルである。

核武装は極論に近いかもしれない。しかし、外交とは変わっていくものである。アメリカが内向きになっていく流れの中で、日本は火の粉を払うために自ら軍事力を向上させていかざるを得ないことも現実だろう。
日本の政治家には、国際政治の「リアル」に冷徹に対応していくことを望みたい。
posted by たぬたぬ at 11:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 国際政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする