2017年01月17日

トランプがロシアと協調をはかる意義は、どこにあるのか?


トランプは次期大統領就任の直前、16日の英紙タイムズ(電子版)のインタビューに答えて、ロシアへの制裁解除と引き換えに核兵器の削減で合意できる可能性があると語った。

トランプは、なぜロシアとの協調を重視するのだろう?
単純に合理的な説明としては「選挙に際して、ロシアから支援を受けた」くらいしか思いつかないし、実際、「ロシアに弱みを握られている」という報道もあるが、トランプは「CIAが意図的に流したフェイクニュース」だと反論している。
これだけでどちらが正しいかの判断はつきかねる。
現実問題としてみれば、国際政治の力点は中東からアジアへ移っている状況の中で、中国・北朝鮮問題を優先するためにロシアと宥和を進めるのは、そう不自然な判断ではないように思う。

もうひとつ重要なのは、インタビューへの回答通り、「核兵器の削減」だろう。今アメリカの大統領になるということは、斜陽化した大企業の社長になるということである。必要なのはとにかくコスト削減だと、トランプは痛切に感じているに違いない。

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ロシアにとっても、アメリカとの宥和は願ってもないことである。
ロシアの外貨稼ぎの2本柱は、エネルギー資源と武器の輸出である。しかし、中東における武器輸出の主要2国だったシリアとリビアのうち、リビアではカダフィ政権が倒れて、数年先まで決まっていた40億ドルの取引を失った。また、シェールオイル・シェールガスの登場により、石油と天然ガスの価格が下落してしまった。
さらに、ロシアはウクライナ紛争により世界各国から経済制裁を受け、三重苦の状態にあるが、アメリカと宥和が進めば、苦境は大きく打開される。

もうひとつ、ロシア南西部は中央アジアに位置し、そのいわゆる「柔らかい下腹部」ではイスラム原理主義者が跋扈している。ISはこの地域のイスラム教徒の間にシンパを増やして影響力を拡大しようとしている。国の不安定化や、下手すれば分裂につながる危険なものだ。

2011年に起きた「アラブの春」は、確かに「大衆国」の幻想に酔って支離滅裂な政治を行ってきたカダフィをはじめ、貧困な民衆の上にあぐらをかく各国の独裁者を追放し、民主化への期待を垣間見させるものだった。しかし、独裁者という強固なプレッシャーが除かれたことで、ISのような危険分子を解放するパンドラの箱ともなった。

アメリカとロシアがIS撲滅のために共闘すれば、シリアにおけるロシアの影響力の拡大を認めることになるが、「何がマシなのか?」という観点からは、それなりに解のひとつでもあろう。

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少し余談的に過去の復習をする。
2014年2月〜3月、ロシアはウクライナ領のクリミア半島を占拠して併合した。これをもって、「ロシアは歴史上かかわりのあるクリミアという土地にこだわり、武力をもって強奪した」と捉えるのが、世界共通の認識だと思う。日本もG7の一国として、経済制裁に歩を合わせた。

しかし、私はちょっと違うのではないかと考えている。土地にこだわっていたら、こだわるべき土地はロシアの周囲の至るところにあり、国境中で併合作戦を始めなければならない。

そうではなく、単にウクライナがNATOへ参加するのを防ぐのが目的だったのではないか? かつて東側のワルシャワ条約機構と西側のNATOは、互角に対峙していた。しかし、ソ連崩壊に伴ってワルシャワ条約機構が解体したのちもNATOはそのまま残り、ときには国連安保理決議を無視して軍事行動を起こしている。さらに、東側だった国々の中にも、NATOへ参加する国が出てきている。
プーチンはそのことにいらだっており、ドミノ式にNATO参加国が増えるのを阻止しようとしたのではないか?

            ◇             ◇

ロシアが現代の強国のひとつであることは間違いない。ドイツ内の難民問題をめぐる対立をあおってメルケル政権転覆を謀ったことなども報道されており、危険な国であることも相変わらずだ。
しかし、もはやアメリカやNATOに正面から対抗する力はないし、プーチンにはその自覚もある。ロシアの軍事行動は「限界のある軍事力でロシアの影響圏を維持しよう」というものに過ぎないし、その軍事力もチェチェン紛争では弱体化がはっきりと見てとれた。

中国の膨張を最も大きな問題と捉え、ロシアの件はいったん横に置こうというのが、トランプの考えなのだろう。この見方については、アメリカ政府内でも意見は分れるだろう。ソ連時代から最大の仮想敵国であった記憶が濃厚だし、今でも対立する分野は多いからだ。

それでも、中国・ロシア(ついでに北朝鮮)をいっぺんに相手にするより、ロシアを引き込んで中国に対抗するというトランプの考えは、現実路線として正論なのではないだろうか?
posted by たぬたぬ at 12:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 国際政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月14日

北方領土交渉「特別な制度」の持つ深い意味


先月2016年12月、安倍首相がプーチン大統領を自分の故郷である山口県に招き、旅館に泊まって親睦を深め、東京でも会談を行った。しかし、お膳立てが大掛かりだった割に領土については具体的な進展が見られず、多くの国民は落胆することになった。
テレビのニュースを見たり、新聞を読む限り、確かにたいした進展はなかったように見える。しかし、本当に成果はなかったのだろうか?

とんでもない! 実に大きな一歩だったのである。

            ◇             ◇

今回、日本とロシアは「特別な制度」を設定することで合意した。
なぜ、「特別な制度」が必要だったのかと言えば、日本にとっては第二次世界大戦末期に不当に奪われたもので、ロシアの法の下で運営することは断固として認められない。
一方、ロシアにとっては実効支配下に置いている地域であり、日本の法の下で運営することは認められない。日本の施政下に入れば日米安保条約が適用され、アメリカが自由に入ってこれることになる。ロシアにとっては、脅威である。
このような2国間で歩み寄れる策として、日本でもロシアでもない「特別な制度」が考えられたのである。

もうひとつ、会談直前の読売新聞のインタビューで、プーチンは「話し合いは2島に限定し、4島返還は論外」という考えを示していたが、「特別な制度」によって2島に限定されなくなった。
まさに見事な返し技だ。安倍首相も魅せてくれるではないか!? 智慧はプロジェクトチームの誰かが出したものだと思うが。

今までは完全な物別れに終わり、万里の長城のような高くて厚い壁がそびえていたが、これによって、人が1人か2人か通れる程度のものだが、初めて突破口が開いたのである。

安倍・プーチンというトップが決めたことで、これから事務方レベルの協議が進んでいくだろう。「特別な制度」は具体化し、形になっていくだろう。
もしかしたら、北方領土の運営は世界の領土問題を解決する手本になり、「特別な制度」は新しい国際法になっていくかも知れない。国際法とは本質的に慣習法であり、大国がやったことが受け継がれていくものだからである。
そう思うと、ワクワクしないだろうか?

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では、北方領土は日本に返ってくるのだろうか?

敗戦国が領土を返してもらうのは難しい。沖縄返還交渉のときもアメリカは「血で贖われたものは、血の代償でしか取り返せない」と、厳しい姿勢をとっていた。日本だって、さんざん外国の領土を侵略してきたのだからお互い様である。

そのような領土交渉において、基本となることがひとつだけある。それは、「返還しないより、返還した方が利益になる」と相手国に認めさせることである。
沖縄の場合、当時100万人近い日本人が住んでおり、返還を希望する運動が盛り上がりつつありあった。また、戦略的にも射程の短い核ミサイルを沖縄に配置することが時代に合わなくなってきた。そして、「核付き・自由使用」を求めるアメリカに対して、「核抜き・本土並み」が戦略上可能なだけでなく、アメリカの利益になることを理解させることに成功した。(『誰も書かなかった首脳外交の内幕』高瀬保 東洋経済新報社などによる。ただし、核については、実際には「ある」と考えられる。)

北方領土も基本は同じだが、条件は大きく違う。現在、日本人は住んでおらず、代わりにロシア人が住んでいる。安倍首相はプーチン大統領に「生きているうちに故郷へ帰りたい」という元住民の声を手渡したが、もし日本に返還されたら、同じことが現在住んでいるロシア人に起こるだろう。

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さて、ロシアにとって、日本との関係を深めるメリットは大きい。

ロシアは伝統的にヨーロッパとの交流がさかんだが、すでにヨーロッパは経済的には安定成長期に入っており、市場として十分ではない。
より豊かになるためには、領土の多くを占めるアジアの開発と、アジア・太平洋地域の国々との交流が不可欠である。

ロシアは中国との交易も重視している。しかし、ロシアは往年のソ連のような強国ではない。
ロシアの人口は1億4346万人(うち極東には600万人)・GDPは2兆0967億7400万ドルに対し、中国の人口は13億7605億人(うち極東には1億5000万人)・GDPは9兆1812億400万ドル。そのため政治・経済・軍事で中国に振り回されることを警戒しているし、極東の人口差には恐怖すら感じているだろう。
ちなみに日本の人口は1億2657万人・GDPは4兆8985億3200万ドルである(人口は2015年/GDPは2013年)。

このような観点から言えば、日本は重要な貿易相手国であり、投資を期待できる国であり、手を携えて極東開発を進めて中国による侵食から国土を防衛するのに最も期待できる国である。
また、G7の中で唯一アジアにあり、ほかの6国に対抗していく足掛かりともなる。

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北方領土における「特別な制度」がうまく行くかどうかは未知数である。また、これが日本に返還される基盤になるかどうかもわからない。
しかし、とてもクリエイティブな試みであり、やってみる価値はあると思う。

<追記>
ロシアは中国と共同で軍事演習を行っているし、プーチン日本の「歴史問題」に言及したこともある。しかし、これは大口の「お客さん」である中国に振り回されたためであり、本心ではなかったと、私は見ている。まあ、「同床異夢」だろう。
あるいは日本に対して、自国の価値を吊り上げるという意図もあるかも知れない。
日本はあまり神経質にならずに、ロシアとの友好を進めていけばよい。それが中国の動きを封じることになる。
posted by たぬたぬ at 18:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 国際政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする