2012年07月03日

シリア国民を虐殺から守る方法はあるか?


シリアが内戦状態に入った。アサド大統領みずからが「これは戦争だ」という認識を示すほど、はっきりとしたものである。国連の仲介努力も徒労に終わった。
国際社会としては、シリア政府による虐殺からシリア国民を守ることを望んだが、そのハードルは高かった。高いハードルをより高くしたのが、ロシアと中国の存在である。

それは自由や平等といった価値観に慣れた国々の人間から見れば、吐き気を催す出来事だった。
悪質な支配者が国民を力で従わせるというところまでは、理解できる。シリアだけでなく、歴史上にいくらでも例はある。しかし、自由が当たり前となった現代において、自国民を次々と虐殺したり、進攻するバスの窓のところに子どもを立たせて「人間の盾」とするような国を支援する国があるということが、決定的に「異質」なのだ。

しかし、視点をロシア側に置いて見れば、ロシアがシリアを支援する理由はわかる。
まず、ロシアにとってシリアは友好国である。チュニジアやエジプトが「春」を迎え、リビアではカダフィが倒されてアラブが自由化していく中で、シリアはロシアにとって貴重な「中東の砦」であると言える。シリアを失えば、ロシアは地中海の港と中東での攻撃や補給の拠点を失う。

シリア地図.jpg

また、シリアはロシアにとって武器を売る「お得意さん」である。シリアの軍備は中東ではエジプトに次ぐが、その軍事力を支えてきたのがロシアなのだ。
もうひとつには、ロシア国内の反対勢力への示威行為もあるだろう。「外で甘い顔をしたら、国内の反政府勢力がつけあがる」ということだ。

次に中国の視点から見れば、シリアは北朝鮮と同様、防波堤の一種と考えていると思われる。アサド政権が崩壊すれば、中国の人権抑圧や周辺諸国への侵攻に対する風当たりが激しくなってしまう。

とはいえ、『北斗の拳』の悪役のように理屈もへったくれもなく国民を虐殺するアサド政権を容認して国際社会から非難を浴びることは、ロシアにとっても中国にとってもプラスではない。ロシアや中国の残虐行為には、それなりの理屈はつくからだ。
その点にロシアと中国を巻き込む妥協点を見出したのが、特使として派遣されたアナン前国連事務総長だった。アサド政権を存続させることを条件として、ロシアと中国から調停案への支持を取りつけたのである。
2大スポンサーから弾圧を緩めるように言われれば、アサドも承服せざるを得ない。アサドは「4月10日までに都市部から部隊を撤収させる」とアナン特使に伝えた。さすがに国連事務総長を務めたほどの人物だけあって、発想も行動力も並ではない。
しかし、その後、アサドは「反体制派からの文書による確約」を要求してきた。反体制派がアサド政権を容認するような約束などするわけがない。これを理由としてアサドは部隊撤収の約束を反故とし、調停案を履行しようとしない。

             ◇             ◇

では、シリア政府による国民の虐殺を防ぐことはできるのだろうか?
結論から言えば、非常に厳しいと言わざるを得ない。アメリカもNATOもロシアと代理戦争をすることまでは望んでいない。とくにヨーロッパはユーロ危機のせいで、経済的なゆとりもない。シリアは石油資源も少なく、元も取れない。アメリカ国民の多くも、軍事介入を望んでいない。オバマ大統領も、今軍事介入すれば、2期目の大統領選で苦戦を強いられるだろう。

現在、シリアから隣国へは、多くの難民が流れ込んでいる。長大な国境線で北側に接するトルコでは、緩衝地帯(中立地帯)の建設が考えられているという。また、シリア領内にも緩衝地帯をつくるべきだという意見もあるようだ。
ただし、緩衝地帯をつくるには、アメリカやNATOの介入が不可欠だ。いつシリアから攻撃されるか、わかったものではないからである。しかし、アメリカやNATOに属する国々は消極的で、反政府軍に武器も供与していない。反政府軍が政府軍に勝つことはまず無理である。

さらに6月末ごろの新聞報道によると、エジプトで大統領になったムハンマド・モルシがイランとの国交回復を図る姿勢を取っていると伝えられた。これは危険である。イランには核開発を断念させるために孤立させているのに、エジプトと国交が開かれたら息を吹き返し、シリアと手を結んで中東全体を揺るがす事態になりかねない。

日本に何か、できるだろうか? 中東の安定は、日本にとっても重要だ。かつてスーダンでは、日本の外務省が対立する当事者の仲裁をして、南スーダン独立の道筋をつくった。長期的視野で見れば、外交のポイント獲得となるだろう。同じような発想で、中東を安定させ、他国に恩を売るような外交政策は、考えられるか?

残念ながら現在のシリアはまだその段階にない。さらに多くの犠牲者が出て、落ち着いてから国連やNATOが介入するしかないだろうが、落ち着く保証もないのが実情である。
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posted by たぬたぬ at 23:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 国際政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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