2011年04月28日

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)と日本の「食」の未来

オーストラリアのギラード首相が、4月23日に来日し、宮城県南三陸町を訪れました。外国首脳として、初めてのことです。菅首相との首脳会談では、液化天然ガス(LNG)、鉄鉱石、レアアースなどの資源やエネルギーの安定供給の継続を約束しました。さらに北澤防衛大臣を表敬訪問し、天皇との晩餐会に出席しました。

これは、2007年に締結した「日豪安保協力共同宣言」に基づいて、日本との関係をさらに強固なものにしつつ、大震災で中断している日豪経済連携協定(EPA)交渉の早期妥結を求め、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加を促しているものです。オーストラリアとしては、牛肉、乳製品、砂糖、小麦の4品目の自由化を要求したものと思われます。

ギラード首相訪日は、日本にとってかなり大きな意味を持っています。まず、外国首脳が被災地に入ることによって、日本が安全であることを世界へ向けてアピールできました。さらに、継続的な支援と産物の取り引きを約束してくれたのですから、友好国とはありがたいものです。その点は、素直に感謝すべきでしょう。
しかし、友好国が示してくれた友情に対しては、友情をもって応えるのが礼儀です。菅政権は、今年の6月までにTPPに参加するかどうかを決めると公言していますから、「開国」へ向けて、一手追い込まれた形になりました。

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TPPというと、コメをはじめとする農産物の問題がクローズアップされます。実際には工業製品もあれば、労働規制の問題、特許など幅広いのですが、無理もありません。日本の場合、農産物にかける関税は平均21.0%ですが、工業製品などすべてのものを含めると、平均4.9%と低く、事実上すでに「開国」している状態であり、残る「大物」は農業だからです。

TPPでは、参加国の完全な自由貿易、もしくは低い関税での貿易が求められています。実際には、各国とも弱い産業はあり、「例外」を設ける動きもありますが、ここでは自由貿易を原則として考えていこうと思います。

自由貿易は、リカードの比較優位論に基づいて行われる貿易です。
相手国よりも生産性において優位に立つものを生産する、たとえば工業国は工業に特化し、農業国は農業に特化してものを生産して貿易を行えば、計算上は両国の富の合計は、特化しないで両方やるよりも大きくなります。
これは、営業が得意なAさんと技術職に向いたBさんが営業と技術の仕事を半分ずつやるよりも、Aさんは営業に徹し、Bさんは技術に徹する方が会社全体の利益は大きくなる、というのと、基本的には同じです。

ただし、理論はあくまで理論です。国々の状況は千差万別であり、多数の地雷が埋まっているカンボジアと、広大な農地で巨大な機械を使って農業を行っているアメリカを同じ土俵であつかうことそのものが、間違っています。

比較優位論は、存在する諸条件を無視し、現実には存在しない諸条件を取り入れて、初めて成立するものです。大筋では正しい面もありますが、社会にそのまま適用しようすると、破壊的な結果をもたらします。

自由貿易を受け入れれば、それぞれの産業ごとに、上位のわずかな国だけが勝利者となります。脆弱な日本の農業が壊滅することは、明らかです。
「農家を甘やかすな」という意見にも、一理はあります。しかし、日本の農地が大規模生産に向かない以上、たとえやり手の経営者が参入しても、安価な外国産の農産物に対抗していくのは、至難でしょう。

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自由貿易は、各時代の権力によって支持されてきました。それは基本的に強い者が勝つからです。
現在、TPPの推進を望んでいる最大の「権力」は、アメリカです。アメリカは戦後、世界市場の巨大プレイヤーとして、市場をリードしてきました。その地位を脅かす中国を、太平洋に面する諸国で包囲するのがTPPの目的です。
TPPに日本と韓国が加われば、保護や規制の上に成り立つ中国は孤立することになります。だからといって、中国自身がTPPに参加するのは、困難です。日本や韓国の工業製品が、関税なしに中国市場へなだれ込んだら、中国の工業は手痛い打撃を受けるでしょう。

このような状況を考えれば、日本がTPP参加の条件としてコメの例外的なあつかいを認めさせるのは、外交的に可能な範疇にあるかもしれません。
とはいえ、コメの関税を維持して米作農家を延命させたとしても、それは期間限定でしかありません。なぜなら、農家の平均年齢は66歳。75歳まで働けると仮定しても、9年後には農家のほとんどがいなくなるからです。

現実の問題として考えれば、近い将来、食料を確保するために、海外から輸入せざるを得なくなるでしょう。それは間違いない現実であり、農産物の自給率は数%を切るかもしれません。
そうなると、食料安全保障の面で問題が出てきます。

食料面での危険を防ぐためには、助成金の額を増やして、若者の農業への参入を促すという方策がまず考えられます。しかし、兆単位の費用をどの財源から持ってくるのかが、まず問題です。また、いつ打ち切られるか減額されるか、わかったものではない助成金で人を引きつけられるかも疑問です。

TPPに参加し、工業で上げた収益を農業振興費にあてるという方法も考えられます。しかし、気概のある人間が、助成金めあてに、あるいは助成金をもらわないとやっていけないような職業に就職するでしょうか?

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国というものは、合理性だけで運営できるものではないでしょう。社会が健全に発展していくためには、農業もある程度以上の規模で行われるのが望ましいと思います。
たとえば、備前焼は田の深いところから掘り出す土がないと、つくることはできません。わらでできた素朴な製品が消えていくのも、さびしいことです。

しかし、それが難しい時代に入りつつあることは、現実として受け止める必要があるでしょう。

これからは、経営力のある日本企業が世界各地に大規模な水田をつくり、日本への食料調達を行うべきかと思います。コメ以外に、コンニャクイモでも蕎麦でも。
すぐれた日本人指導者が何人かいれば、従業員は現地の人たちでかまいません。

そうなれば、企業は十分な利益を上げ、日本国民は品質に一定以上の信頼をおける農産物を安定的に確保でき、安い価格で買うことができます。
posted by たぬたぬ at 19:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 農業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする